「キノコの生理活性効果」

キノコの生理活性

種類成分生理活性効果備考
シイタケβ-グルカン、レンチシン、レンチナシン
(抗酸化作用はごく最近発見された)
抗腫瘍活性
抗酸化作用
レンチナン原料
エノキタケFEH-1(タンパク多糖体)抗腫瘍活性FEH-Gとして商品化
マイタケβ-(1-3),(1-6)グルカン、酸性キシログルカン
酸性ヘテログルカンなど多糖体
抗腫瘍活性グリフロン原料
カワラタケβ-(1-3)グルカン、ステロイド類
多糖タンパク複合体
抗腫瘍活性
血糖降下作用
クレスチン原料
ヤマブシタケガラクトキシログルカン、マンノグルコキシ
ラン、ヘリセノン、エリナシン
抗腫瘍活性
脳細胞の若返り
医薬品研究中
ハナビラタケβ-(1-3),(1-6)グルカン100g中43gで
キノコ類中トップの含有量
抗腫瘍活性健康食品
シロキクラゲβ-(1-3)グルカン、亜鉛、カルシウム、
カリウムなどがずば抜けて多い
抗腫瘍活性
血圧改善、強精
 
マンネンタケβ-(1-3)グルカン、アラビノキシロβ-グル
カン、プロテオグルカン、ゲルマニウムなど
抗腫瘍活性
血糖値降下
 
スエヒロタケβ-グルカン抗腫瘍活性シゾフィラン
ヒラタケ(未確定)コレステロール低下作用 
カバノアナタケβ-グルカン
(水溶性リグニン)
抗腫瘍活性
エイズウイルス阻害活性
 
(詳細は研究中)
参考文献 1:川岸洋和 監修、「きのこの生理活性と機能」、潟Vーエムシー出版(2005.10.31, www.cmcbooks.co.jp ISBN4-88231-534-3-C3045
参考文献 2:荒井基夫 監修、「ガン消滅」、文星出版(2000.11)

薬用キノコの利用法


β-グルカン(β-(1-3)D, β-(1-6)Dグルカン)とは 

 糖を形作る分子の環がたくさん連なったものを多糖類と呼びますが、β-グルカンとはその多糖類の1種で、数万から数百万の分子量からなるものが多い。β-(1-3)Dグルカンとは糖質の分子のつながり方の一形式をいい、β-(1-6)Dグルカンは分子のつながり方がやや異なる。β-(1-3)グルカンの型のものについてたくさんの実験がなされ、免疫細胞を刺激することが記録されています(米国医学図書館文献検索サイトMedLineで確認できる)。

 β-グルカンの薬効を試した論文やデータをよく見かけますが、これらの多くはいずれも注射でマウスの血液中に直接送り込んだ場合です。きのこを口から食べてもそれらデータと同じ効果があるとは限りません。人間の腸は残念ながら、数万の分子からなる多糖類をそのままでは吸収できない上に、これを分 解する酵素も持っていません。したがって、これらが腸で吸収されるためには、分子の鎖を数千位に切ってやる必要があります。熱水処理したものには、このような比較的短い分子も含まれますが、一般には極くわずかしか含まれません。何らかの酵素処理をしたものが市場には出ていますが、どの程度切れているかはよくわからないのが現状です。

 では経口で接種しても効果が無いのでしょうか。そうではなく最近、腸管免疫が研究されており、経口投与の効果も研究されています。腸管を覆う粘膜には、ドーム球場のような形をしたパイエル板と呼ばれる組織があり、パイエル板には粘膜免疫を担当するリンパ球が組織化されて集まっています。パイエル板における免疫系の応答機構については現在アレルギー反応や大腸菌応答などについて研究がされていますが、ベータグルカンなどの免疫応答機序についてはあまり研究が進んでいません。今後の研究の成果を見守る必要があり、現状では確定的のことはまだ言えない段階にあります。しかしその機序については次第に明らかにされることが期待されています。

 口経で薬効を試験した論文やデータもたくさん見られますがこれらの大部分はマウスを使った実験。このため、人間での薬効や副作用を懸念する意見もあります。しかし、人間では直接的な実験が制限されるため、実験データによる科学的な実証がされにくいということであって、これはひとえに計測手段の課題と考えられます。したがってこの理由をもってキノコ系の利用を排除することもまた不合理でありましょう。

抗腫瘍活性とは

 キノコの抗腫瘍効果は生体が持っている免疫細胞の活性化を通じて現れるものです。直接に癌細胞をやっつける薬用成分があるわけではありません。

 免疫細胞の中でマクロファージ、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、NK細胞などが連携して癌化した細胞を見つけ、攻撃し、やっつけますが、これらの免疫細胞の連携と働きが悪いと、癌細胞は一方的に増殖します。

 キノコの成分の中のβ-グルカンという多糖体が体の中にはいると、上の様な免疫細胞の連携を保つ、ある種のタンパク質(インターロイキン12と呼ばれる)が多く放出され、免疫細胞の数が増えると同時に癌を殺す機能が活発化し、結果として、癌細胞の増殖を押さえる効果があることが解っています。

 免疫細胞の働きには個人差があります。ガン細胞の性質や、その人の免疫細胞の性質により、ターゲットが十分に見分けられない場合があります。またβ-グルカンに対する免疫細胞の活性化反応にも個人差があります。さらに困難なのは、がんと識別する特別なたんぱく質「がんペプチド」をがん自身が隠して外から見えなくしてしまっている場合です。こうなると免疫細胞ががんを識別できません。これらの判定方法はいま研究段階にあり、十分な研究が進んでいるとは言えません。利用する側からは、ある種類のきのこで効果がはっきりしない場合は、別のきのこや、きのこ以外の抗腫瘍活性物質を試して見るのがよいでしょう。

 よくキノコ系の健康食品の広告に「○○を飲み続けてガンが治った」とあたかもその食品だけで治癒したように誤解する書き方をしたものがありますが、ほとんど手術、抗ガン剤、放射線などの処置が行われており、ガン細胞数を極力減らした上で免疫系による闘いが行われているはずです。健康食品の宣伝文ではそれらが詳しく書かれていないか、あるいは故意に一般的医療処置経過について触れないことが多い点に注意すべきです。一般的な治療行為が可能なる場合はそれらによって極力ガン細胞数を減らすと同時にキノコの抗腫瘍活性を利用して押さえ込む場合に良い結果が得られるでしょう。

 大きくなったガン細胞の集団と免疫細胞の戦いでは数の上で負けてしまいます。ガン細胞数の少ないうちは免疫細胞群の攻撃で縮小できる可能性がありますが、ガン細胞生成と免疫細胞による捕捉の割合のバランス如何によっては免疫系だけでは太刀打ちできません。消滅させられないまでも、その時点で可能な限りの方法を使ってがん細胞の総数を減らしておき、そしてその消滅と発生のバランスを少しずつ免疫細胞の力を借りて有利な方向に持ってゆく必要があります。(消滅割合)-(発生割合)をプラスに出来、それを維持したときに勝利がやってきます。

脳細胞の若返り

 従来の説によると、脳細胞は加齢とともに減少する一方で、決して再生しないと言われていました。しかし最近の研究によると神経細胞の死滅を防ぐ機能をもつタンパク質があることが発見されています。また神経細胞を再生する実験も行われています。

 ヤマブシタケの中には壊死しかかった神経細胞を回復させるエリナシン、ヘリセノンが発見されており、製薬会社は競ってアルツハイマー病の新薬の開発をねらっている。

抗酸化作用とは

 体内の活性酸素は細胞壁を痛めつけ、老化を促進したり、癌化を促進することが知られている。この機能についてはシイタケがよく調べられている。煮た場合、成分が汁にでるので、煮汁ごと摂取するのがよい。

クレスチンとは

 カワラタケの熱水抽出液から生成したβ-グルカンとタンパク質の複合体。タンパク質と複合させることで腸からの吸収を良くしており、経口剤にしている。

 進行した癌は人が持っている免疫力を押さえ込む働きをもつ物質を放出するものが多い。クレスチンはこの物質を作らせない働きを持ち、結果として免疫力を高める。

 また進行癌でなくても、初めから免疫細胞が細菌を攻撃するパターンになっていて、癌を攻撃する能力が弱いことがある。この場合、クレスチンは癌細胞の抗原を認識しやすくし、免疫細胞を癌細胞攻撃のパターン(TH1細胞優位)に切り替える作用を持つと言われている。

レンチナンとは

 シイタケの子実体から採った免疫賦活剤。注射薬で直接体内に入れる。

グリフロンとは

 多糖体をもとに作られたエイズ薬です。

シゾフィランとは

 スエヒロタケの培養ろ過液から採った免疫賦活剤。マクロファージを活性化させる。注射薬で直接体内に入れる。科研製薬が開発。

コレステロール低下作用

 実験はラットを使ったものであるが次のような報告がある。餌にヒラタケ4%を混ぜあたえると4週間で血清中のコレステロールが下がり初め、7週目で血清の総コレステロールが40%低下したとの報告がある。低下は主にVLDL, LDL(悪玉コレステロールといわれる)によるものであった。同様の実験は10数件におよび報告されている。(参考文献 2, p.184)
ヒラタケ属きのこの薬理効果
などに詳しく述べられている。

FEH-1(熱水抽出物)とは

 エノキタケから熱水抽出したもので、有効成分はタンパク70%を含む多糖体。分子量30,000以下の低分子からなる。β-(1-3)-D-グルカンとは別で、これら高分子量のものは除いてある。現在健康食品「えのきたけ抽出エキス粉末」として(社)長野県農村工業研究所により開発され商品化している。(参考文献 1:松澤恒友、エノキタケ p.89)

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